庵野監督は、様々なインタビューで『機動戦士Vガンダム』からの影響について語っています。
『Vガンダム』DVD-BOXに収録されているコメントでは、放送当時、評判の悪さを嘆いてアニメ誌で特集するよう働きかけたり、ガイナックスで原画を手伝ったことを明言しています。
そして「Vガンダムがなければエヴァをやろうとは思わなかった」といった主旨の発言さえしているのです。
宇宙世紀0120年代以降、最大の権勢を誇るザンスカール帝国は、強大な軍事力を擁し、地球のヨーロッパ地方を制圧するほどの圧倒的な勢力となっていました。
ザンスカール帝国を支えていたのは、矛盾する2つのイデオロギーでした。
女王マリア・ピァ・アーモニアが帝国以前から広めていた母なる存在=母性を重要視し、至上のものとする「マリア主義」と、政権党であるガチ党が腐敗政治家や反体制者を粛清するため用いるギロチンの恐怖です。
奇妙なことに、明らかに相容れない母権と父権による支配が、共存に成功していたのです。
しかし、異なる2つの思想は歪を生み、人類退行兵器「エンジェル・ハイロゥ」として具現化し、地球を壊滅寸前まで追い込むことになります。
こうした母権と父権の相克といった『Vガンダム』のテーマが、『エヴァンゲリオン』に深い影響を与えたのは確実だと思われます。
それは、例えばアメリカの巨大ロボット物に人が搭乗する仕様が皆無であるという事実とも繋がります。
エヴァのように人が搭乗するタイプは、未成熟だと指摘される日本に固有の仕様なのです。
また、エヴァのパイロットはコクピットの中で、さながら羊水に浸った赤子のような状態になります。
これは母の胎内回帰的なイメージを強く喚起させはしないでしょうか。