庵野監督は、「エヴァの羽が12枚あるのはなぜか?」との問いに、「堕天使・ルシファー」のイメージと答えています。
キリスト教の伝承によれば、元々神に最も信頼される大天使であったルシファーは、12枚の光り輝く羽を持ち、美と知恵と勇気と気品に満ち溢れていました。
しかし、神の玉座に座ろうと反逆を起こしたため、神の逆鱗に触れ、天界から地上へと突き落とされてしまったのです。
以後、彼は「サタン」と呼ばれ、地上を徘徊するようになりました。
重要なのは、「サタン」とは「堕天使」であり、本来は神に仕える「善」なる存在であったということです。
つまり、「善」を欲しながらも結果として「悪」を成してしまう、その死角に「悪魔」は宿るのではないでしょうか。
そしてこれは、神と人との相克という壮大な枠組の物語を語る上での、不可避的な臨界点でもあるのです。
まさにタイトルにふさわしい流れといえるでしょう。

例えば、コミックス版の『風の谷のナウシカ』のラスト。
腐海の生態系は、科学万能主義に胡坐した旧世界の人間が産み出したものです。
自らがこまねいた危機により絶滅に瀕した人間たちが、「浄化プログラム」のために遺伝子工学を駆使して作り出したのが腐海の生物だったのです。
そして、腐海の生物は、長い時間をかけて大地を浄化してきました。
ところが、ナウシカの時代の人間は、「墓所の主」によって、腐海の毒とは共生できても、新しい清浄な世界では生きていけない体にプログラムされていたのです。
なぜなら、新世界の神にとって、人間こそが「悪魔」に他ならないからです。