というのも、メカやエフェクトの描写には類稀なる才能を発揮する庵野監督も、当時は人物を描くことを苦手としており、さすがの宮崎氏もまさかメカが描けて人物を描けないタイプが存在するとは思いもよらなかったのです。
当初メカのみならずキャラクターも庵野監督に任せていた宮崎氏でしたが、次第に駄目出しが増えていき、ついには苛立ちを募らせ、痺れを切らせて「未熟者!」と面罵するに至りました。
この時の壮絶なやりとりは、今でも庵野ファンの間では語り草となっています。
そして、庵野監督は巨神兵や戦車、爆発のみを担当することになったのです。
しかし、そうした関係を経てもなお、庵野監督は宮崎氏を自らの「師匠」であると考えており、物の考え方から技術的なことまで、かなりの影響を受けていると語っているのです。

こうした観点から『ナウシカ』と『エヴァンゲリオン』を再見すると、確かに両作品には驚くほど類似が見受けられます。
巨神兵とエヴァ初号機の造形的な類似は言うまでもありませんが、人類規模のカタストロフを迎えたあと、生き残ってしまった人間たちが再生へ向かうまでの物語であること。
イデオロギーや戦争を繰り返しいがみ合う人間たちと、その外部からやって来る脅威との対立=相克があり、主人公がその対立の中間の位相に存在し、その両義性から引き裂かれる立場に設定されていること。
こうした物語を語るうえでの根本的な方法論を、庵野監督は『ナウシカ』での宮崎氏との出会いを通じて学んだのではないかという推論は、穿ち過ぎではないでしょう。
ともあれ、この出会いを通じて、庵野作品に登場する「人物」たちが、断然魅力を増していったのは間違いなさそうです。