庵野監督は「自分たちの世代にはメディアを通じた疑似体験以外何もない」ことを繰り返し強調します。
これは、作品内容の変遷に関わらず、庵野監督の認識として絶えず一貫しています。
彼は、日本が「敗戦」の神経症を脱し、経済の飛躍的な発展によって、テレビというメディアが各家庭のお茶の間に備えられるのが自明になり始めた時代を過ごしています。
ある意味でテレビのコンテンツの発展と共に年齢を重ねた「オタク第1世代」であるこの世代以降、現実世界よりもテレビの中のオーディオヴィジュアルな世界のほうにリアリティを感じる人が圧倒的に増大したのです。
では、そんな「戦争」の悲惨さを直接的に知り得ない世代は、いかにしてこれを描くべきでしょうか。
旧劇場版では、庵野監督がそれを自分に問うた痕跡が確かに認められるのです。

そのヒントを、庵野監督は敬愛してやまない岡本喜八監督作品から得ています。
岡本氏は50年代後半にデビューを飾り、短いカットをリズミカルに積み重ねたスピード感溢れるテンポと、乾いたクールな人間ドラマを得意とする、人気監督です。
その視覚的なスタイルからいって、庵野監督が直接的かつ最も大きな影響を受けた監督といえるかもしれません。
そんな庵野監督が、岡本作品の中で1番好きだと語り、実に100回以上繰り返し見ているとするのが『激動の昭和史・沖縄決戦』なのです。